後方押出しとは
後方押出し(バックワードエクストルージョン)は、冷間成形の三基本操作の一つであり、金属がパンチの移動方向とは逆方向に流れる工程である。パンチがブランク表面に食い込むと、金属はパンチの外周と囲繞するダイ壁の間隙を通って後方(パンチの進行方向と逆方向)へ流れ、カップ状、ソケット状、または中空形状のキャビティを形成する。
Backward Extrusion — Cross-Section
六角穴付きボルト(キャップボルト)の頭部穴加工、インターナルドライブ(ヘックスローブ等)の成形、各種中空部品の製造において不可欠な工程である。
加工のメカニズム
後方押出しの動作原理は以下の通りである。
- 据え込みまたは前方押出しで予成形されたブランクをダイキャビティにセットする。
- パンチが前進し、ブランク端面に圧縮力を加える。
- 材料はパンチ外周とダイ内壁の間の環状空間を通り、パンチの進行と逆方向(後方)へ流れる。
- 流れた材料はカップ状の側壁を形成する。
- パンチを引き抜くと、底部にキャビティを持つカップ形状が得られる。
後方押出しで形成されるキャビティの深さは、パンチのストローク量と材料の流動性によって決まる。パンチ径と流動する材料の側壁厚さの比率が重要な設計パラメータとなる。
後方押出しの用途
| 用途 | 部品例 |
|---|---|
| 六角穴形成 | 六角穴付きボルト(M2〜M42) |
| トルクスドライブ穴 | トルクスキャップスクリュー、ヘックスローブボルト |
| 中空ピン・スリーブ | 軽量化が要求される航空宇宙用ピン |
| カップ形状部品 | バルブボディ、コンタクトソケット |
| 深穴スタッド | 専用工具用スタッドシャフト |
後方押出しとドリル穴あけの比較
キャビティ形成において、後方押出しとドリル穴あけを比較した場合、後方押出しは複数の点で優れている。
材料歩留まり: ドリル穴あけは材料を切り粉として除去するが、後方押出しでは材料はキャビティ周囲の側壁として再配分される。スクラップは発生しない。
加工速度: 多段式圧造機の1ステーション内で完結するため、別工程のドリル穴あけと比較して大幅な時間短縮が可能である。
強度: キャビティ内壁は加工硬化により硬化し、トルク伝達時の変形抵抗が向上する。六角穴付きボルトのドライブ面強度は、機械加工品と比較して向上することが多い。
ファイバーフロー: ドリル穴あけでは結晶粒組織が切断されるが、後方押出しでは組織がキャビティの形状に沿って流れ、連続性が保たれる。
成形限界と設計上の考慮事項
後方押出しには物理的な限界がある。過度に深いキャビティや薄い側壁は、材料の座屈や割れを引き起こす可能性がある。設計においては以下を考慮する必要がある。
- L/D比(深さ/径比): 通常、2.5〜3.0以下が推奨される
- 側壁最小肉厚: ワイヤー径の約15〜20%以上が目安
- 材料延性: 延性の低い材料では、事前の軟化焼鈍が必要な場合がある
Manzoni多段式圧造機では、後方押出しステーションのパンチとダイの位置決め精度がAbsolute Zero Clearance®ベアリング技術によって保証されており、深穴加工においても高い同心度と寸法再現性を実現する。